二つの目盛り
価格チャートの縦軸の描き方は二つあります。通常(算術)目盛りは、同じ金額の差を同じ高さで描きます。1万から2万までの高さと、10万から11万までの高さが同じです。対数目盛りは、同じ比率を同じ高さで描きます。1万から2万までと5万から10万までは、どちらも2倍なので高さが同じになり、1・2・4・8のように倍々で増える目盛り線が等しい間隔で並びます。ほとんどのチャートソフトは通常目盛りが既定で、設定で対数目盛りに切り替えられます。式で言えば、対数目盛りの高さは価格の対数に比例します。そのため二つの価格のあいだの高さは差ではなく比率で決まり、どの価格帯でも10%の上昇は同じ高さで描かれます。損益を比率で考える人にとっては対数目盛りのほうが実際の感覚に近く、金額で考える人にとっては通常目盛りのほうが近いと言えます。
同じ2倍、違う高さ
10から20に上がることと、1,000から2,000に上がることは、どちらも2倍、つまり+100%の上昇です。持っているお金が2倍になったことは同じですが、通常目盛りでは後者が前者の100倍の高さで描かれます。対数目盛りでは二つの動きの高さが同じです。下落も同様で、半値(−50%)と2倍(+100%)は対数目盛りでは同じ高さになり、半値になった価格が元に戻るには2倍に上がらなければならないという事実が、そのまま図に表れます。何十倍も動いた資産を一つの画面に収めるときに対数目盛りを使うのは、このためです。この非対称は、損失を見るときに特に重要です。30%の下落を取り戻すには約43%、75%の下落を取り戻すには300%の上昇が必要です。通常目盛りでは底の近くの反発が小さく描かれ、たいしたことがないように見えがちですが、対数目盛りでは底からの2倍の上昇が、高値からの2倍の上昇と同じ高さで描かれます。
ビットコインの9年を通常目盛りで見ると
下の図は、バイナンスのBTCUSDTの確定した月足終値109本(2017年8月〜2026年8月)を通常目盛りで描いたものです。2017年12月の13,716 USDTから2019年1月の3,434 USDTまでの下落は−75%で、2021年10月の61,300 USDTから2022年12月の16,542 USDTまでの下落は−73%でした。比率ではほぼ同じ下落なのに、最も低い終値から最も高い終値までの全体の幅と比べると、前の下落は約9%、後の下落は約40%の高さで描かれます。2017〜2020年の動きは底に押しつぶされ、ほとんど平らに見えます。このように描くと、ここ数年の動きだけが大きく荒く感じられ、初期の下落はたいしたことがなかったかのように読まれがちです。しかし、その時期に保有していた人が被った損失の比率は、二度とも4分の3前後でした。
バイナンス BTCUSDT 月足終値、2017-08〜2026-08(確定した109か月)。通常(算術)目盛り。横の点線は1万・2万・4万・8万 USDT、二つの点は2019-01と2022-12の終値で、この2点を結んだ線を右端まで延ばしました。「線の下」はこの線より低く確定した月(2020-03)です。−75%・−73%は直前の高値の終値(2017-12、2021-10)から測った下落率です。
同じデータを対数目盛りで
同じ月足終値を対数目盛りで描くと、二度の大きな下落が近い高さに見えます。全体の幅と比べて、前の下落は約39%、後の下落は約37%です。横の点線の1万・2万・4万・8万 USDTは、通常目盛りでは下のほうに固まっていましたが、対数目盛りでは等しい間隔に広がります。2倍になるたびに同じ高さだけ上がるということです。何年にもわたるビットコインのチャートを対数目盛りで見るのは、初期の動きも今の動きと同じ物差しで比べられるからです。対数目盛りでは、等しい間隔の目盛り線が表す金額の差が上に行くほど大きくなるので、目盛りの数で価格差を見積もると間違えます。この図では、1目盛りが1万 USDTではなく2倍を意味することを先に確かめてから読む必要があります。目盛り線の数字の読み方を変えるだけでも、長期チャートの印象は大きく変わります。
バイナンス BTCUSDT 月足終値、2017-08〜2026-08(確定した109か月)。対数目盛り。横の点線は1万・2万・4万・8万 USDT、二つの点は2019-01と2022-12の終値で、この2点を結んだ線を右端まで延ばしました。「線の下」はこの線より低く確定した月(2026-06・07)です。−75%・−73%は直前の高値の終値(2017-12、2021-10)から測った下落率です。
トレンドラインは目盛りによって違う線になる
二つの図の点は2019年1月と2022年12月の月足終値で、この2点を結んだ線を右端まで延ばしました。通常目盛りの直線は毎月同じ金額ずつ上がる線で、対数目盛りの直線は毎月同じ比率で上がる線なので、同じ2点を結んでも別々の線になります。通常目盛りでは2020年3月の終値6,410 USDTが線の下に沈みましたが、対数目盛りでは線の上でした。逆に、2026年6月・7月の終値は対数目盛りの線の下でしたが、通常目盛りの線よりはずっと上でした。同じチャートでも、目盛りによって「トレンドライン割れ」という判断が分かれることがあります。トレンドラインを基準に判断する人なら、どちらの目盛りで引いた線なのかも記録しておくとよいでしょう。ほかの人のチャートで「トレンドライン割れ」という言葉を聞いたときも、そのチャートが通常目盛りか対数目盛りかを先に確かめなければ、同じ線を見ているのかどうか分かりません。
短い期間では差が小さい
数日から数週間のチャートのように、価格が数十%の範囲で動く区間では、二つの目盛りの差は小さくなります。たとえば100から110のあいだを描くとき、対数目盛りでちょうど真ん中に来る価格は約104.9で、通常目盛りでは105です。差が大きくなるのは、価格が何倍も動いた長い期間を一つの画面に収めるときです。また、目盛りは描き方にすぎないので、移動平均やRSIのような指標の値そのものは変わりません。変わるのは、手で引く線と、目で感じる値動きの大きさです。おおむね画面の中で価格が20〜30%以内で動いたのなら二つの目盛りの差は目で見分けにくく、2倍を超えて動いたのなら線の傾きと位置がはっきり違ってきます。そのため1分足や1時間足で1日前後を見るときは目盛りを気にすることはほとんどありませんが、週足・月足で数年を見るときは、まず目盛りを確かめるのが順序です。
このサイトの長期ツールと目盛り
ビットコイン長期指標ツールは、価格と200週・200日移動平均線を対数チャートに描きます。暗号資産の積立シミュレーターでも価格チャートを対数目盛りに切り替え、長い期間の価格変化を比率で比べられます。ビットコイン月別リターンのツールは月ごとの値動きを金額ではなく%で比べますが、同じ比率を同じ大きさで見るという点で、対数目盛りと同じ考え方です。長い期間のチャートを見るときは、いま見ているチャートがどちらの目盛りなのかをまず確かめる習慣が役に立ちます。同じツールの中でも、期間を短くすれば目盛りの差は小さくなり、長くすれば大きくなります。積立の結果を見るときに価格チャートを対数に切り替えると、通常目盛りでは底に押しつぶされて見えていた初期の買い付け期間の動きも、後の期間と同じ物差しで比べやすくなります。期間を変えるたびに、目盛りの設定がそのままかどうかも確かめておくとよいでしょう。
対数目盛りが語らないこと
対数目盛りの上の直線は、これまで一定の比率で動いてきたという要約にすぎず、これからもその比率が続くという根拠ではありません。対数チャートに引いた長いトレンドラインや曲線の帯を先に延ばし、目標価格のように使うことがありますが、これは過去の成長率が保たれるという仮定を図にしたものです。この記事の図でも、2019〜2022年の二つの安値を結んで先に延ばした対数目盛りの直線の下に、2026年6月と7月の終値が沈みました。また対数目盛りは0や負の値を描けないので、リターンや資金調達率(ファンディングレート)のように0をはさんで行き来する値には使いません。また対数目盛りは、大きな下落をそれほど劇的でないように見せます。長期の対数チャートで小さなくぼみのように見える区間が、実際には資産の半分以上が消えた期間だということもあるので、図の高さとは別に、下落率の数字も合わせて確かめる習慣が必要です。
暗号資産と株式で違って見える点
対数目盛りがどれほど必要かは、その資産が何倍動いたかによって決まります。ビットコインのように数年のあいだに何十倍も上がっては70%以上下げることを繰り返した資産は、通常目盛りでは初期の数年がほとんど見えないので、長期チャートを対数で見るのが事実上の基本になります。米国の指数も数十年を一つの画面に収めると同じ問題が起き、昔の暴落と最近の下落を比べるには対数目盛りが必要です。一方、数年ほどの期間に価格が2〜3倍以内で動いた銘柄なら、二つの目盛りの差は比較的小さくなります。サムスン電子やSKハイニックスのような韓国の大型株も、10年、20年を一つの画面に収めれば何倍もの動きが積み重なるので、対数目盛りが意味を持ちます。株式では、株式分割や配当を反映した修正株価を使っているかどうかも合わせて確かめる必要があります。分割を反映していないチャートでは、1日で価格が何分の一にも下がったように見え、対数目盛りではその落差が大きな段差としてそのまま残ります。暗号資産に分割はありませんが、ウォン建てとUSDT建てのように基準通貨の違うチャートを行き来すると、為替の動きが混ざって長期チャートの形が変わることがあります。
リアルタイムチャートで目盛りを見るとき
リアルタイムチャートで対数目盛りをオンにしているなら、画面を拡大したり期間を変えたりするたびに軸の範囲が計算し直されることを覚えておく必要があります。ほとんどのチャートソフトは画面に見えている足の最高値と最安値に合わせて縦軸を自動で伸び縮みさせるので、進行中の足が新しい高値や安値を付けると軸全体が変わり、手で引いておいた線の傾きも画面上では違って見えることがあります。また、通常目盛りで引いた線を対数目盛りに切り替えると、同じ2点を結んだ線でも、そのあいだを通る価格が変わります。長期のトレンドラインを基準にリアルタイムの価格を見守るなら、その線がどちらの目盛りで引かれたのか、そして割れたかどうかを進行中の足ではなく確定した足の終値で判断するのかを、前もって決めておくべきです。月足を基準にした線なら、進行中の月の価格は1か月ずっと上下し、最終日になって初めて一つの点として確定します。この記事の図が確定した月足終値だけを使い、進行中の月を除いているのも同じ理由です。
よくある間違い
目盛りに関してよく見かける間違いを集めました。ほとんどは、いま見ているチャートがどちらの目盛りなのかを確かめないところから始まります。
- 通常目盛りの長期チャートを見て、最近の下落が史上最大だと決めつける(比率では同じくらいか、もっと小さいこともある)
- 対数チャートの直線のトレンドラインを先に延ばし、目標価格のように使う
- ほかの人が言うトレンドライン割れを、目盛りの違うチャートで確かめようとする
- 対数目盛りの軸を目盛りの数で見積もり、価格差を読み違える
- 株式の長期チャートで、分割・配当を反映していない価格をそのまま比べる
- リターンや資金調達率のように0や負の値が出る値に、対数目盛りを使おうとする
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